殺しの場面

テレビの画像を写真に撮ってみようと思った。しかも、殺人の場面ばかりを狙って。誰でも同じだと思うが、テレビドラマを見ていて殺人の場面になると薄気味悪い感情が生まれる。殺された後の死体だけを見ても後味が悪い。ドラマよりもニュース映像の方がさらに生々しくて気持ちが落ち着かない。この気持ち悪さは、殺人そのもの、死体そのものを見た反応で、直截的即物的な感想だ。ところが、何が映っているかよくわからない映像の場合は、どんな感想をもつだろうか。殺人の場面のように見えるが、よくわからない。苦痛にゆがんだ顔に見えるが、ただの影にも見える。男が女の首を絞めているように見えるが、ただの走査線の模様にも見える。よくわからない。はっきりしているのは、僕の部屋のある一定の距離からテレビの画面を写真に撮ったということだ。不明瞭で後味の悪い映像と同じ画面に、明確な現実が映っている写真を繰り返し見ていると、どんな感想が生まれるか知りたかった。(『感性のバケモノになりたい』より一部抜粋)

top back